IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)に関するレポート

IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)は、現代のパワーエレクトロニクス分野において不可欠な半導体デバイスとして位置づけられている14。1980年代に実用化されて以来、その優れた特性により電力変換技術の発展に大きく貢献し、今日では電気自動車から家電製品まで幅広い分野で活用されている。本レポートでは、IGBTの歴史的発展、技術的特徴、実用性、そして将来展望について包括的に調査し、初心者から専門家まで理解できるよう詳細に解説する。

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1. 歴史

1.1 IGBT誕生前の技術的背景

1980年代初頭、パワー半導体の分野では大きな技術的課題が存在していた。当時主流であったバイポーラトランジスタは高耐圧での低オン抵抗という優れた特性を持っていたが、入力インピーダンスが低く、スイッチング速度が遅いという欠点があった45。一方、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)は高い入力インピーダンスと高速スイッチングが可能であったが、高耐圧化においてオン抵抗が高くなるという問題を抱えていた45

1.2 IGBTの理論的提案と初期開発

IGBTの動作原理は1968年に山上倖三によって特許公報昭47-21739で最初に提案された1。この基本概念は、サイリスタと同様にP-N-P-Nの4層構造を持ちながら、サイリスタ動作をさせずにMOSゲートで電流を制御するというものであった1

1978年には、B.W. ScharfとJ.D. Plummerが4層の横型サイリスタでこのIGBT動作モードを実験的に初めて確認した1。この実験は理論的な概念が実際に動作することを示す重要な一歩であった。

1.3 実用化への道のり

実用的な縦型IGBTの原型は1982年にB.J. BaligaがIEDM(International Electron Devices Meeting、国際電子デバイス会議)で発表した112。この素子はIGR(Insulated-Gate Rectifier、絶縁ゲート整流子)と呼ばれ、IGBTの基本構造を確立した重要なマイルストーンとなった1

しかし、初期のIGBTには深刻な技術的問題があった。電流が大きくなるとラッチアップが発生し、サイリスタ動作に移行してしまうため、素子破壊が起こりやすく実用には適さなかった118

1.4 ノンラッチアップIGBTの革命的開発

IGBTの実用化における最大のブレークスルーは、1984年に東芝の中川明夫等によって実現されたノンラッチアップIGBTの発明であった118。この画期的な設計は、「IGBTの飽和電流をラッチアップする電流値よりも小さく設定する」という新しい概念を採用し、ラッチアップを完全に抑制することに成功した1

この技術の信頼性を実証するため、1200V の素子を600V のDC電源に直結して負荷なしで25μsの期間、素子をオンさせる実験が行われた1。この過酷な条件下でも素子は破壊せずに電流をオフできたことで、IGBTの負荷短絡耐量が初めて実現された1

1.5 商業化と普及

1985年、東芝がノンラッチアップIGBTを製品として発売し18、これがIGBTの本格的な商業化の始まりとなった。同時期にGEも製品化を行ったが、ラッチアップ問題は解決されておらず、応用が限定されていた1

1989年には、三菱電機がIGBTの性能を最大限に引き出すための制御技術を開発し、駆動・保護回路を内蔵したインテリジェントパワーモジュール(IPM)を量産化した13。これにより、IGBTの使いやすさと信頼性が格段に向上し、実用化が加速した。

1.6 技術の発展と普及拡大

1990年代には、IGBTが無停電電源装置(UPS)に本格採用され始めた3。富士電機では1990年にコンバータとインバータ双方にIGBTを採用したオールIGBT式のUPSを75~200kVAのラインアップで製品化し、翌1991年には1,000kVAまで拡大した3。この時代のIGBT式UPSは、従来のサイリスタ型と比較して変換効率が80%から約90%に向上し、電力ロスを約半減させるとともに、装置本体の大きさも約1/3に小型化することができた3

1.7 現代への発展

2000年代以降、データセンターの大規模化と高効率化の要求に応えるため、IGBTの性能向上が継続的に進められてきた3。近年では、従来のIGBTに比べてターンオフ損失を約6割削減する新構造のIGBTも開発されており、Si IGBTの性能限界を押し上げる研究が続けられている8

2. 種類

2.1 チャネル型による分類

IGBTは基本的な構造によってNチャネル型とPチャネル型の2種類に分類される45。現在の主流はNチャネル型であり、市販されているIGBTの大部分がこの形式を採用している4

Nチャネル型IGBTは、エミッタに対して正のゲート電圧を印加することでコレクタ-エミッタ間が導通し、コレクタ電流が流れる仕組みになっている4。一方、Pチャネル型IGBTは極性が逆になり、エミッタに対して負のゲート電圧を印加することで動作する17

2.2 構造による分類

IGBTの内部構造は、主に3つの代表的な形式に分類される67

パンチスルー型(PT型)は、初期のIGBTで採用された構造で、比較的薄いN-ドリフト層を持ち、コレクタ側にN+バッファ層を設けた構造となっている67。この構造は低損失特性に優れているが、短絡耐量が低いという課題がある7

ノンパンチスルー型(NPT型)は、PT型よりも厚いN-ドリフト層を持ち、バッファ層を持たない構造である67。この構造は短絡耐量が高く、制御性に優れているという特徴がある7

薄ウエハーパンチスルー型(薄PT型またはフィールドストップ型:FS型)は、PT型とNPT型の利点を組み合わせた構造で、薄いウエハーを使用しながらも十分な耐圧を確保している6

2.3 最新の構造技術

近年では、さらに高度な構造技術が開発されている。逆導通IGBT(RC-IGBT)は、FS型のコレクター側P層の一部をN化し、MOSFETのように環流ダイオード(FWD)を内蔵した構造となっている6。これにより、外付けダイオードが不要となり、モジュールの小型化と性能向上が実現されている。

また、研究段階では「両面(ダブル)ゲート」構造も開発されており、従来のIGBTが片面(表面)だけにゲートを設けるのに対し、表面と裏面の両方にゲートを設ける構造により、ターンオフ損失を約6割削減することが可能となっている8

2.4 パッケージ形態による分類

IGBTは用途や電力容量に応じて、異なるパッケージ形態で提供されている49

ディスクリート(個別)タイプは、単体のIGBT素子をパッケージングしたもので、比較的小容量の用途に使用される4。一般的に1kHz~60kHzの動作周波数で1kVA以上の範囲をカバーしている4

モジュールタイプは、複数のIGBT素子を組み合わせて一つのパッケージに収めたもので、大容量用途に適している49。モジュール形式では100MVAを超える範囲まで対応可能であり、出力容量が大きい場合、スイッチング損失などの制限により動作周波数が下がる傾向がある4

インテリジェントパワーモジュール(IPM)は、IGBTと駆動・保護回路を一体化したモジュールで、家電から小型産業用モーターまで幅広い用途で使用されている913。IPMでは6個のIGBTと3相ゲートドライバーを組み合わせた3相インバータ構成が一般的である9

3. 原理

3.1 基本的な動作原理

IGBTの動作原理を理解するためには、まず基本的な半導体の動作メカニズムを把握する必要がある。IGBTは、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)とバイポーラトランジスタの複合構造を持つ電圧制御型の素子である45

電圧制御型とは、入力信号として電圧を使用して素子のオン・オフを制御する方式を指す。これに対して、バイポーラトランジスタは電流制御型であり、ベース電流の注入によって動作を制御する5。IGBTはMOSFETと同様に電圧駆動型であるため、駆動回路がシンプルで、制御に必要な電力が小さいという利点がある5

3.2 キャリア輸送メカニズム

IGBTの動作において重要な概念がキャリア輸送である。キャリアとは電荷を運ぶ粒子のことで、半導体中では主に電子と正孔(ホール)の2種類が存在する1117

MOSFETはユニポーラ素子と呼ばれ、電子のみが電流輸送に関与する19。一方、バイポーラトランジスタはバイポーラ素子と呼ばれ、電子と正孔の両方が電流輸送に関与する1419。IGBTは両者の特性を組み合わせており、入力部はMOSFET構造でユニポーラ動作、出力部はバイポーラ構造でバイポーラ動作を行う45

3.3 伝導度変調効果

IGBTの低オン抵抗特性を実現する重要なメカニズムが伝導度変調効果である1117。この効果は、N-ドリフト層内で電子と正孔の密度が同時に増加することで、層の導電率が大幅に向上する現象である11

通常の半導体では、キャリア密度は不純物濃度によって決まるが、IGBTでは動作時にコレクタから正孔が注入され、エミッタから電子が注入されることで、ドリフト層内のキャリア密度が大幅に増加する1117。この結果、ドリフト層の抵抗が劇的に低下し、大電流を流しても電圧降下が小さくなる17

3.4 スイッチング動作

IGBTのスイッチング動作は、ターンオン(オン状態への移行)とターンオフ(オフ状態への移行)の2つの過程に分けて理解できる1117

ターンオン時には、ゲートに正の電圧を印加することで、ゲート電極直下のPエミッタ層に電子の集まったチャネルが形成される1117。このチャネルの形成により、エミッタからドリフト層への電子の注入が開始され、同時にコレクタからドリフト層への正孔の注入も始まる11

ターンオフ時には、ゲート電圧を除去することでチャネルが消失し、エミッタからの電子注入が停止する1117。しかし、ドリフト層に蓄積された正孔と電子は即座に消失せず、徐々に再結合または外部に排出される必要がある17。この過程がテール電流と呼ばれる現象を引き起こし、IGBTのターンオフ時間を決定する重要な要因となる1011

3.5 等価回路モデル

IGBTの動作を理解するための有効な手法の一つが等価回路モデルの使用である17。最も基本的な等価回路では、IGBTをPNPバイポーラトランジスタとNチャネルMOSFETの組み合わせとして表現する17

この等価回路において、NチャネルMOSFETのドレインがPNPトランジスタのベースに接続され、MOSFETのドレイン電流がバイポーラトランジスタのベース電流として機能する17。ゲート電圧の印加によりMOSFETがオンすると、PNPトランジスタにベース電流が供給され、コレクタ-エミッタ間に大きな電流が流れる仕組みとなっている17

3.6 ラッチアップ現象とその対策

初期のIGBTで大きな問題となったラッチアップ現象についても、動作原理の理解において重要である118。ラッチアップとは、IGBT内部の寄生サイリスタが動作してしまい、ゲート制御を失って素子が破壊に至る現象である112

ノンラッチアップIGBTでは、「飽和電流をラッチアップ電流より小さく設定する」という設計概念により、この問題を根本的に解決している118。具体的には、素子構造を最適化することで、通常の動作範囲内では寄生サイリスタが動作しないように設計されている18

4. 構造

4.1 基本構造の概要

IGBTの基本構造は、MOSFETのドレイン側にP+コレクタ層を付加した4層構造(P+-N-P-N+)となっている41117。この構造により、MOSFETの電圧制御特性とバイポーラトランジスタの大電流駆動能力を両立させている。

具体的な層構成は、上から順にN+エミッタ層、Pエミッタ層、N-ドリフト層、P+コレクタ層となっている1117。ゲート電極は酸化膜を介してPエミッタ層上に形成され、絶縁ゲート構造を実現している11

4.2 各層の役割と機能

N+エミッタ層は電子の供給源として機能し、高い不純物濃度により低抵抗を実現している1117。この層から供給される電子が、IGBTの電流輸送における重要な役割を担っている。

Pエミッタ層は、ゲート電圧印加時にチャネルが形成される領域であり、MOSFET部分の動作を決定する重要な層である1117。この層の不純物濃度やゲート酸化膜の特性により、IGBTの閾値電圧やゲート容量が決まる。

N-ドリフト層は、IGBTの耐圧を決定する最も重要な層である1117。この層の厚さと不純物濃度により、素子の耐圧特性が決まる。また、動作時には伝導度変調効果により、この層の抵抗が大幅に低下する11

P+コレクタ層は正孔の注入源として機能し、バイポーラ動作を実現するための重要な層である1117。この層からの正孔注入により、N-ドリフト層での伝導度変調が生じ、IGBTの低オン抵抗特性が実現される。

4.3 ゲート構造の種類

IGBTのゲート構造には、主に平面型とトレンチ型の2種類がある7

平面型ゲート構造は、最初期のIGBTで採用された構造で、ゲート電極が半導体表面に平行に配置されている7。この構造は製造が比較的容易であるが、チャネル密度が低く、オン抵抗が高いという課題がある。

トレンチ型ゲート構造は、半導体表面に溝(トレンチ)を掘り、その内部にゲート電極を埋め込んだ構造である7。この構造により、チャネル密度を大幅に向上させることができ、オン抵抗の低減が可能となる7。現在の高性能IGBTでは、トレンチ型が主流となっている。

4.4 コレクタ構造の最適化

コレクタ構造は、IGBTの性能を決定する重要な要素の一つである67。従来のパンチスルー型では、N+バッファ層を設けることで薄いウエハーでも高耐圧を実現していたが、短絡耐量が低いという問題があった7

ノンパンチスルー型では、バッファ層を除去し、厚いN-ドリフト層により耐圧を確保している7。この構造により、短絡耐量が向上し、より安全な動作が可能となった7

フィールドストップ型は、薄いウエハーを使用しながらも、電界停止層により高耐圧を実現する構造である6。この構造により、低損失と高耐圧を両立することができる。

4.5 寄生要素と対策

IGBT構造には、動作に悪影響を与える寄生要素が存在する112。最も重要な寄生要素は、P+コレクタ層、N-ドリフト層、Pエミッタ層、N+エミッタ層により形成される寄生サイリスタである112

この寄生サイリスタが動作すると、ラッチアップが発生し、ゲート制御を失って素子破壊に至る可能性がある1。ノンラッチアップ構造では、Pエミッタ層の抵抗を最適化し、寄生サイリスタの動作を抑制している118

また、ゲート-コレクタ間の帰還容量も重要な寄生要素である11。この容量により、高速スイッチング時にゲート電圧に振動が生じ、誤動作の原因となる可能性がある11

4.6 温度特性を考慮した構造設計

IGBTの構造設計では、温度特性も重要な考慮事項である。高温動作時には、キャリア移動度の低下により特性が変化するため、温度係数を考慮した最適化が必要である13

また、熱的な安定性を確保するため、チップ面積の最適化や熱抵抗の低減も重要な設計要素となっている13。大容量モジュールでは、複数のチップを並列接続することで電流容量を拡大しているが、各チップ間の特性ばらつきを最小化する構造設計が求められる13

5. 出力

5.1 電流容量と電圧定格

IGBTの出力性能は、主に電流容量と電圧定格によって特徴づけられる410。現在市販されているIGBTの電圧定格は、600Vから数kVまでの幅広い範囲をカバーしており、特に600Vと1200V品が産業用途で多く使用されている10

電流容量については、ディスクリートタイプでは数アンペアから数百アンペア、モジュールタイプでは数千アンペアまでの製品が利用可能である4。大容量モジュールでは、複数のIGBTチップを並列接続することで、10,000アンペアを超える電流容量を実現している製品も存在する4

電流定格の選定においては、一般的にインバータ回路の交流出力電流実効値の√2倍(約1.41倍)より大きくなるように選定するのが基本的な指針となっている15。これは、インバータ回路では瞬時的に実効値の√2倍の電流が流れるためである15

5.2 スイッチング周波数特性

IGBTのスイッチング周波数は、その出力性能を決定する重要なパラメータである410。一般的に、IGBTのスイッチング周波数は20kHz程度であり、MOSFETほど高速なオン・オフ動作はできない10

高耐圧品ほどスイッチング周波数は低下する傾向があり、数kVの耐圧を持つ製品では数kHz程度の動作周波数となる10。これは、高耐圧化に伴いN-ドリフト層が厚くなり、蓄積されるキャリア量が増加することで、ターンオフ時間が長くなるためである1011

用途別に見ると、産業用途では一般的に数kHzから数十kHzの範囲で使用され、家電用途では数十kHzの比較的高い周波数で動作することが多い910。スイッチング周波数の選択は、スイッチング損失と回路の小型化のトレードオフを考慮して決定される。

5.3 導通特性とオン電圧

IGBTの導通特性は、オン電圧(コレクタ-エミッタ間飽和電圧)によって評価される78。オン電圧が低いほど導通損失が小さくなり、効率の向上につながる8

最新のIGBTでは、1200V耐圧品において1.9V~2.4V程度のオン電圧を実現している7。これは、従来のバイポーラトランジスタと比較して非常に低い値であり、IGBTの大きな利点の一つとなっている。

オン電圧は温度によって変化し、一般的に温度上昇とともに低下する傾向がある。これは正の温度係数を持つため、並列接続時の電流分担が比較的良好になるという利点がある13

5.4 スイッチング損失特性

IGBTのスイッチング損失は、ターンオン損失とターンオフ損失の合計で評価される78。スイッチング損失は動作周波数に比例して増加するため、高周波動作時には大きな課題となる8

1200V耐圧のトレンチIGBTにおいて、ターンオン損失は0.033~0.054mJ/A/pulse程度、ターンオフ損失は0.151~0.178mJ/A/pulse程度の性能が実現されている7。ターンオフ損失がターンオン損失より大きいのは、ターンオフ時にドリフト層に蓄積されたキャリアを排出する必要があるためである811

最新の研究では、両面ゲート構造の採用により、ターンオフ損失を約6割削減する技術も開発されており、Si IGBTの性能限界を押し上げる可能性が示されている8

5.5 短絡耐量と安全動作領域

IGBTの出力性能において、短絡耐量は非常に重要な特性である17。短絡耐量とは、出力端子が短絡された状態でも素子が破壊せずに動作を継続できる能力を指す1

ノンラッチアップIGBTの開発により、IGBTでは世界で初めて負荷短絡耐量が実現された1。これは、1200Vの素子を600VのDC電源に直結し、25μsの期間オンさせても破壊しない特性である1

現代のIGBTでは、構造の最適化により短絡耐量がさらに向上しており、NPTトレンチIGBTでは従来のPTトレンチIGBTと比較して高い短絡耐量を実現している7

安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)は、IGBTが安全に動作できる電圧・電流の範囲を示すもので、IGBTはバイポーラトランジスタ以上に広いSOAを持つことが明らかになっている13

5.6 効率と熱特性

IGBTを使用したシステムの効率は、導通損失とスイッチング損失の合計によって決まる3。IGBT式UPSでは、従来のサイリスタ式と比較して変換効率が80%から約90%に向上し、電力ロスを約半減させることができている3

熱特性については、IGBTはMOSFETに比べてスイッチング損失が大きく、発熱しやすいという特徴がある5。そのため、適切な冷却装置やヒートシンクの設計が重要となる5

大容量モジュールでは、熱抵抗の低減と熱の均等分散が重要な設計要素となっており、最適化されたパッケージ構造により熱特性の改善が図られている13

6. 利用用途・利用分野

6.1 電力変換装置での活用

IGBTの最も重要な応用分野の一つが電力変換装置である34。インバータ(直流から交流への変換)とコンバータ(交流から直流への変換)の両方でIGBTが広く使用されている3

無停電電源装置(UPS)の分野では、1990年代からIGBTの本格採用が始まった3。富士電機では1990年にオールIGBT式のUPSを開発し、75~200kVAのラインアップを製品化した3。このIGBT式UPSは、従来のサイリスタ式と比較して変換効率を80%から約90%に向上させ、装置本体のサイズも約1/3に小型化することに成功した3

データセンター向けの大容量UPSでは、2007年には変換効率95%を実現する製品も登場し、電力使用量の抑制とスペース効率の向上に大きく貢献している3。現在では、クラウドサービス用データセンターの建設ラッシュに伴い、より高効率で小型なUPSシステムへの需要が継続的に増加している3

6.2 輸送機器での革新的応用

電気鉄道分野では、IGBTが従来のサイリスタやGTOサイリスタを置き換え、電車の性能向上に大きく貢献している418。IGBTを使用したVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)インバータにより、電車の滑らかな加速・減速制御や回生ブレーキの効率的な実現が可能になった4

電気自動車(EV)とハイブリッド自動車(HEV)の分野でも、IGBTは中核的な役割を果たしている45。モータードライブシステムにおいて、バッテリーからの直流電力を効率よく交流に変換し、モーターの精密な制御を実現している4。IGBTの採用により、電気自動車の航続距離延長と加速性能の向上が同時に実現されている。

近年では、電気自動車の急速充電システムにもIGBTが活用されており、高効率な電力変換により充電時間の短縮と電力損失の低減を実現している4

6.3 産業用モーター制御システム

産業用途では、IGBTがモーター駆動システムの中核デバイスとして幅広く活用されている49。可変速駆動装置(VSD:Variable Speed Drive)において、IGBTインバータにより三相誘導モーターの回転数を精密に制御することが可能になっている4

工場の生産ラインでは、搬送装置、ポンプ、ファン、コンプレッサーなどの回転機械にIGBTベースのインバータが組み込まれ、エネルギー効率の向上と生産性の向上を同時に実現している49。特に、負荷に応じた最適な回転数制御により、従来の一定速度運転と比較して大幅な省エネルギー効果が得られている。

エレベーターシステムでは、IGBTを使用した精密なモーター制御により、滑らかな昇降動作と快適な乗り心地を実現している4。また、回生ブレーキシステムの活用により、下降時のエネルギーを回収して電力消費の削減も図られている。

6.4 家庭用電化製品での普及

家庭用電化製品の分野では、IGBTの小型化と低コスト化により、多くの製品で実用化が進んでいる59

エアコンシステムでは、コンプレッサーモーターとファンモーターの制御にIGBTインバータが使用され、室温に応じた最適な運転制御により省エネルギー性能が大幅に向上している59。従来のオン・オフ制御と比較して、インバータエアコンは約30~50%の省エネルギー効果を実現している。

洗濯機では、洗濯槽の回転制御にIGBTインバータが採用され、洗濯物の量や汚れ具合に応じた最適な洗浄動作を実現している5。また、脱水工程では高速回転制御により、効率的な水分除去が可能になっている。

IH調理器(電磁誘導加熱器)では、IGBTを使用した高周波インバータにより、効率的な誘導加熱制御を実現している45。温度制御の精度向上と加熱効率の向上により、快適で安全な調理環境を提供している。

6.5 再生可能エネルギーシステム

太陽光発電システムでは、太陽電池パネルで発電された直流電力を交流電力に変換するパワーコンディショナーの中核デバイスとしてIGBTが使用されている45。高効率な電力変換により、太陽光エネルギーの有効活用とシステム全体の経済性向上に貢献している。

風力発電システムでは、風速の変動に対応した可変速制御システムにIGBTが活用されている4。風況に応じた最適な発電機回転数制御により、発電効率の向上と風力エネルギーの最大活用を実現している。

エネルギー貯蔵システム(ESS)では、バッテリーの充放電制御システムにIGBTが組み込まれ、電力系統の安定化と再生可能エネルギーの平準化に重要な役割を果たしている4

6.6 新興技術分野での展開

スマートグリッド技術では、電力系統の双方向制御システムにIGBTが活用されている4。需要側管理(DSM:Demand Side Management)システムにおいて、電力需要の変動に応じた効率的な電力配分制御を実現している。

電力貯蔵技術の分野では、フライホイール蓄電システムや大容量コンデンサーシステムの電力変換装置にIGBTが使用され、瞬時電圧低下対策や電力品質改善に貢献している4

産業用ロボットでは、各関節のサーボモーター制御システムにIGBTインバータが組み込まれ、高精度な位置制御と滑らかな動作を実現している4。特に、溶接ロボットや組立ロボットでは、IGBTの高速スイッチング特性により、精密な作業制御が可能になっている。

6.7 用途別の技術要求と対応

各用途分野でのIGBTには、それぞれ異なる技術要求がある49

高出力用途(電車、大型産業機器)では、大電流容量と高耐圧が重要であり、IGBTモジュールでの対応が主流となっている4。これらの用途では、数kVAから数MVAの電力レベルでの動作が要求される。

中出力用途(産業用モーター、UPS)では、効率と信頼性のバランスが重要であり、IPM(インテリジェントパワーモジュール)形式での提供が一般的である9

小出力用途(家電、小型産業機器)では、コストと小型化が重要であり、ディスクリート形式での使用が多い49。これらの用途では、数十Wから数kWの電力レベルでの動作が一般的である。

7. 仕様・性能

7.1 電気的仕様の基本項目

IGBTの電気的仕様は、その性能と適用範囲を決定する重要な指標である710。最も基本的な仕様項目は、コレクタ-エミッタ間遮断電圧(VCES)とコレクタ電流定格(IC)である7

コレクタ-エミッタ間遮断電圧は、IGBTがオフ状態で耐えることができる最大電圧を示し、600V、1200V、1700V、3300V、6500Vなどの標準値が設定されている710。産業用途では600Vと1200V品が最も多く使用され、電力用途では3300V以上の高耐圧品が使用される10

コレクタ電流定格は、IGBTが連続的に流すことができる最大電流値を示し、ディスクリートタイプでは数アンペアから数百アンペア、モジュールタイプでは数百アンペアから数千アンペアの範囲で設定されている710

7.2 導通特性の詳細仕様

導通特性に関する主要な仕様項目は、コレクタ-エミッタ間飽和電圧(VCE(sat))とゲート閾値電圧(VGE(th))である710

コレクタ-エミッタ間飽和電圧は、IGBTが完全にオン状態になったときのコレクタ-エミッタ間の電圧降下を示し、この値が小さいほど導通損失が少なくなる7。最新の1200V IGBTでは、1.9V~2.4V程度の低い飽和電圧を実現している7

ゲート閾値電圧は、IGBTがオンし始めるゲート電圧の値を示し、一般的に3V~6V程度に設定されている10。この値は駆動回路の設計において重要なパラメータとなる。

ゲート-エミッタ間リーク電流(IGES)は、ゲートの絶縁性能を示す指標であり、通常は数十nA以下の非常に小さな値となっている7。この特性により、IGBTは高い入力インピーダンスを実現している。

7.3 スイッチング特性の評価指標

スイッチング特性は、IGBTの動的性能を評価する重要な指標群である78。主要な項目には、ターンオン時間、ターンオフ時間、スイッチング損失がある。

ターンオン時間(ton)は、ゲート信号の立ち上がりからコレクタ電流が定格値の90%に達するまでの時間で表され、一般的に数百nsから数μsの範囲である7

ターンオフ時間(toff)は、ゲート信号の立ち下がりからコレクタ電流が定格値の10%まで低下するまでの時間で表され、ターンオン時間より長くなる傾向がある710。これは、ドリフト層に蓄積されたキャリアの排出時間が必要なためである11

スイッチング損失は、ターンオン損失(Eon)とターンオフ損失(Eoff)で評価され、単位はmJ/A/pulse(ミリジュール毎アンペア毎パルス)で表される7。最新の1200V IGBTでは、ターンオン損失0.03~0.05mJ/A/pulse、ターンオフ損失0.15~0.18mJ/A/pulse程度の性能を実現している7

7.4 容量特性と高周波性能

IGBTの高周波特性は、各端子間の寄生容量により決定される11。主要な容量成分は、入力容量(Ciss)、出力容量(Coss)、帰還容量(Crss)である11

入力容量は、ゲート-エミッタ間容量とゲート-コレクタ間容量の合計であり、駆動回路の設計において重要なパラメータとなる11。この容量が大きいと、ゲート駆動に必要な電力が増加し、高周波動作が困難になる。

帰還容量(ゲート-コレクタ間容量)は、スイッチング時のdV/dt特性に大きく影響し、この容量が大きいとスイッチング速度が制限される1115

出力容量は、コレクタ-エミッタ間容量であり、外部回路との相互作用に影響する11

7.5 熱的性能と信頼性指標

IGBTの熱的性能は、動作温度範囲と熱抵抗により評価される1315

動作温度範囲は、一般的に-40℃から+150℃または+175℃に設定されており、産業用途や自動車用途での厳しい環境条件に対応している13

熱抵抗(Rth(j-c):接合部-ケース間熱抵抗)は、チップで発生した熱がケースに伝わる効率を示し、この値が小さいほど効率的な放熱が可能である13

最大接合温度(Tjmax)は、IGBTチップが安全に動作できる最高温度であり、通常150℃または175℃に設定されている13。この温度を超えると、素子の特性劣化や破壊が生じる可能性がある。

7.6 安全動作領域と保護機能

安全動作領域(SOA:Safe Operating Area)は、IGBTが安全に動作できる電圧・電流の範囲を示すグラフであり、設計時の重要な指標となる1315

短絡耐量は、出力端子が短絡された状態でIGBTが破壊せずに動作を継続できる時間で評価され、通常10μs程度の耐量が確保されている715

逆バイアス安全動作領域(RBSOA)は、IGBTがターンオフする際の安全な動作範囲を示し、誘導性負荷を駆動する際に重要な指標となる7

dV/dt耐量は、コレクタ-エミッタ間電圧の急激な変化に対するIGBTの耐性を示し、外部ノイズや回路動作による誤点弧を防ぐために重要である15

7.7 最新技術による性能向上

最新のIGBT技術では、従来の性能限界を超える革新的な改善が実現されている8

両面ゲート構造の採用により、ターンオフ損失を従来の約40%まで削減することが可能になっている8。この技術により、Si IGBTがSiC MOSFETに迫る低損失特性を実現している。

微細化技術の進歩により、チップ面積の縮小と性能向上が同時に実現されており、同一パッケージでより高い性能密度を達成している8

新しいウエハー技術と製造プロセスの最適化により、製造コストの削減と歩留まりの向上も実現されており、IGBTの普及拡大に貢献している8

8. 選定方法

8.1 選定における基本的な考え方

IGBTの適切な選定は、システム全体の性能、信頼性、経済性に大きく影響する重要なプロセスである1015。選定においては、電気的仕様、熱的仕様、機械的仕様を総合的に検討し、使用条件に最適な製品を選択する必要がある。

選定プロセスは、まず使用条件の明確化から始まる1015。具体的には、動作電圧、電流レベル、スイッチング周波数、動作温度範囲、負荷特性、求められる効率レベルなどを詳細に把握することが重要である。

次に、これらの使用条件に基づいて、必要な電気的仕様を決定し、該当する製品群から候補を絞り込む10。さらに、熱設計、駆動回路設計、保護回路設計を考慮して、最終的な製品選定を行う15

8.2 電圧定格の選定指針

電圧定格の選定においては、システムで使用される最大電圧に対して十分な余裕を持たせることが重要である1015。一般的には、実際の動作電圧の1.5~2倍程度の電圧定格を選定することが推奨されている15

例えば、DC400Vシステムでは600V品、DC600Vシステムでは1200V品を選定するのが一般的である10。この余裕度は、サージ電圧やスイッチング時の電圧オーバーシュートに対する安全率を確保するために必要である15

三相交流システムでは、線間電圧の実効値に√2を乗じた値(ピーク値)を基準として電圧定格を選定する15。さらに、電源電圧の変動や高調波成分も考慮して、適切な安全率を設定する必要がある。

8.3 電流定格の選定方法

電流定格の選定においては、実際に流れる電流の波形と周囲温度を考慮した詳細な検討が必要である15

インバータ回路などの交流出力回路では、出力電流の実効値に対して√2倍(1.41倍)の瞬時電流が流れるため、この値を基準として電流定格を選定する15。さらに、負荷の特性や起動時の過電流も考慮して、十分な余裕度を確保する必要がある。

連続動作と断続動作では選定基準が異なり、断続動作の場合はデューティ比を考慮した実効電流で評価する15。また、周囲温度が高い環境では、温度ディレーティングを適用して定格電流を低減する必要がある15

パルス動作の場合は、パルス幅、繰り返し周波数、デューティ比を総合的に考慮し、熱的な蓄積効果を評価して適切な電流定格を選定する15

8.4 スイッチング周波数に基づく選定

スイッチング周波数は、システムの性能と効率に大きく影響するため、IGBTの特性との整合性を十分に検討する必要がある10

高周波動作を要求される用途では、スイッチング損失の小さいIGBTを選定することが重要である10。一般的に、IGBTのスイッチング周波数は20kHz程度が上限とされているが、最新の製品では50kHz以上での動作も可能な製品が開発されている10

低周波動作が主体の用途では、導通損失の小さいIGBTを優先して選定することで、システム全体の効率向上が図れる10。特に、電車用途や大容量インバータでは、数kHz程度の低周波動作が一般的であり、導通損失重視の選定が行われる。

スイッチング周波数の選定においては、フィルタ回路のサイズ、電磁ノイズ、効率のトレードオフを考慮する必要がある10。高周波化により受動部品の小型化が可能になるが、スイッチング損失の増加とEMI(電磁妨害)対策が必要になる。

8.5 パッケージ形態の選択

IGBTのパッケージ形態は、用途、電力レベル、実装方法に応じて適切に選択する必要がある49

ディスクリートタイプは、比較的小容量の用途に適しており、設計の自由度が高いという利点がある4。ただし、駆動回路や保護回路を別途設計する必要があるため、設計工数と実装面積が増加する可能性がある。

モジュールタイプは、大容量用途に適しており、複数のIGBT素子を最適化された構成で組み合わせることで、高い性能と信頼性を実現している4。熱設計や絶縁設計も最適化されているため、システム設計の簡素化が可能である。

IPM(インテリジェントパワーモジュール)は、IGBT素子と駆動・保護回路を一体化したパッケージで、設計工数の削減と高い信頼性を両立している913。特に、家電用途や小型産業機器では、IPMの採用によりシステムの小型化とコスト削減が実現できる。

8.6 熱設計と冷却方式の考慮

IGBTの選定においては、発生する損失と放熱設計を総合的に検討することが重要である15

損失計算は、導通損失とスイッチング損失を個別に計算し、動作条件に応じて合計損失を求める15。導通損失は、オン電圧と実効電流の積で計算され、スイッチング損失は、スイッチング周波数と各スイッチング動作での損失エネルギーの積で計算される。

冷却方式の選択は、自然空冷、強制空冷、水冷などの選択肢があり、発生損失と設置環境に応じて最適な方式を選定する15。自然空冷では数W程度、強制空冷では数十W程度、水冷では数百W以上の損失に対応可能である。

熱抵抗の計算においては、チップ-ケース間、ケース-ヒートシンク間、ヒートシンク-周囲間の各熱抵抗を考慮し、最大接合温度を超えないことを確認する必要がある15

8.7 駆動回路との適合性

IGBTの駆動回路設計は、選定したIGBTの特性に最適化する必要がある1115

ゲート駆動電圧は、IGBTを確実にオンさせるために+15V程度、確実にオフさせるために-15V程度の電圧を印加するのが一般的である15。ゲート抵抗の値により、スイッチング速度と電磁ノイズのトレードオフを調整する。

ゲート容量に応じて、駆動回路の出力電流能力を設定する必要がある11。ゲート容量が大きいIGBTでは、高速スイッチングのために大きな駆動電流が必要となる。

保護機能として、過電流保護、過電圧保護、過温度保護などを適切に設計し、IGBTの安全動作領域内での動作を確保する必要がある15

8.8 コストと供給性の評価

IGBTの選定においては、初期コストだけでなく、ライフサイクルコストも考慮することが重要である10

高効率のIGBTは初期コストが高い場合があるが、運用時の電力損失削減により、長期的にはコスト効果が得られる場合が多い10。特に、連続運転される産業用途では、効率向上による電力コスト削減効果が大きい。

供給安定性と技術サポートの評価も重要であり、長期間にわたって安定した供給が可能なメーカーや製品を選定することで、製品のライフサイクル全体でのリスクを最小化できる10

将来の技術動向や市場動向も考慮し、次世代技術への移行計画も含めた総合的な評価を行うことが望ましい8

9. 使い方

9.1 基本的な駆動回路構成

IGBTを適切に使用するためには、まず基本的な駆動回路の理解が必要である1115。IGBTは電圧制御型の素子であるため、ゲート端子に適切な電圧を印加することでオン・オフ制御を行う11

基本的な駆動回路は、電源回路、ゲート駆動回路、保護回路で構成される15。電源回路では、ゲート駆動用の正負電源(+15V、-15V)を供給し、ゲート駆動回路では、制御信号に応じてゲート電圧を制御する15

ゲート駆動回路には、通常、ゲート抵抗(RG)が挿入され、スイッチング速度の調整と電磁ノイズの抑制を行う1115。ゲート抵抗が小さいとスイッチング速度は向上するが、dV/dtが大きくなり、電磁ノイズや誤点弧の原因となる可能性がある15

絶縁型のゲート駆動回路では、光結合器やトランスを使用して一次側と二次側を絶縁し、高電圧システムでの安全性を確保している15

9.2 ゲート駆動条件の最適化

IGBTの性能を最大限に引き出すためには、ゲート駆動条件の最適化が重要である1115

ゲート駆動電圧は、オン時に+15V、オフ時に-5V~-15Vを印加するのが一般的である15。正のゲート電圧により確実にオン状態にし、負のゲート電圧により確実にオフ状態を維持し、ノイズによる誤点弧を防止する15

ゲート抵抗の選定は、スイッチング速度、電磁ノイズ、短絡電流の抑制効果を総合的に考慮して決定する15。一般的に、ターンオン抵抗は10~50Ω、ターンオフ抵抗は5~20Ω程度が使用される15

ターンオンとターンオフで異なるゲート抵抗を使用することで、最適なスイッチング特性を実現できる15。ターンオフ時には小さな抵抗を使用してスイッチング損失を低減し、ターンオン時には大きな抵抗を使用してdV/dtを抑制する方法が一般的である。

9.3 保護回路の実装

IGBTの安全な動作を確保するためには、適切な保護回路の実装が不可欠である15

過電流保護回路は、IGBTに流れる電流を監視し、設定値を超えた場合に速やかにIGBTをオフする機能を持つ15。電流検出方式としては、シャント抵抗、カレントトランス、ホール効果センサーなどが使用される15

過電圧保護回路は、IGBTのコレクタ-エミッタ間電圧を監視し、定格電圧を超えた場合に保護動作を行う15。サージ吸収回路として、スナバ回路やクランプ回路が併用される場合が多い15

短絡保護回路は、負荷短絡時にIGBTを保護するための重要な機能である15。IGBTの短絡耐量は通常10μs程度であるため、この時間内に短絡を検出し、保護動作を完了する必要がある15

温度保護回路は、IGBTの接合温度を間接的に監視し、過熱状態を検出して保護動作を行う15。サーミスタやダイオードを使用した温度センサーにより、ケース温度を監視するのが一般的である。

9.4 スナバ回路の設計

スナバ回路は、IGBTのスイッチング時に発生するサージ電圧や振動を抑制し、素子を保護するための重要な回路である15

RCスナバ回路は、最も基本的なスナバ回路で、抵抗とコンデンサの直列回路をIGBTのコレクタ-エミッタ間に並列接続する15。この回路により、ターンオフ時のdV/dtを制限し、電圧オーバーシュートを抑制できる15

RCDスナバ回路は、RCスナバ回路にダイオードを追加した構成で、ターンオン時の損失を低減できる利点がある15。ダイオードにより、ターンオン時にコンデンサの放電電流がIGBTを流れることを防ぐ15

アクティブクランプ回路は、より高度なスナバ回路で、補助スイッチとコンデンサにより、スイッチング損失を大幅に低減できる15。ただし、制御回路が複雑になるため、高性能が要求される用途で使用される。

9.5 実装上の注意事項

IGBTの実装においては、電気的特性だけでなく、機械的・熱的な考慮も重要である15

プリント基板のレイアウトでは、ゲート駆動回路とIGBTの間の配線を可能な限り短くし、寄生インダクタンスを最小化する15。特に、ゲート-エミッタ間の配線は、ノイズの影響を受けやすいため、ツイストペアやシールド線の使用が推奨される15

電源系統のバイパスコンデンサは、IGBTの近傍に配置し、スイッチング時の電流変化による電圧変動を抑制する15。大容量のコンデンサと小容量のコンデンサを組み合わせて使用することで、広い周波数範囲でのインピーダンス低減が可能になる15

放熱設計では、IGBTとヒートシンクの間に適切な熱伝導材料を使用し、熱抵抗を最小化する15。放熱グリスや熱伝導シートの選定は、動作温度範囲と要求される熱抵抗に応じて決定する15

機械的な取り付けでは、適切な締め付けトルクでIGBTをヒートシンクに固定し、熱的接触を確保する15。過度な締め付けは、パッケージの破損や特性劣化の原因となるため注意が必要である15

9.6 並列運転時の考慮事項

大電流用途では、複数のIGBTを並列接続して使用する場合がある13。並列運転を成功させるためには、各素子間の特性ばらつきを最小化し、均等な電流分担を実現する必要がある13

静的な電流分担は、各IGBTのオン電圧特性により決まる13。オン電圧の正の温度係数により、温度上昇した素子の電流が減少し、自動的に電流バランスが調整される特性がある13

動的な電流分担は、スイッチング時の特性ばらつきにより影響を受ける13。ゲート駆動回路を各素子に対して独立に設け、ゲート抵抗を調整することで、スイッチング特性を均一化できる13

配線インダクタンスの差は、並列素子間の電流アンバランスの原因となるため、各素子への配線長を可能な限り等しくする必要がある13

9.7 EMI対策と規格適合

IGBTを使用したシステムでは、高速スイッチングにより電磁ノイズが発生するため、適切なEMI(電磁妨害)対策が必要である15

伝導性ノイズ対策として、電源ラインにコモンモードチョークやラインフィルタを挿入し、ノイズの伝播を抑制する15。また、スイッチング周波数を変調することで、スペクトラムを拡散し、特定周波数でのノイズレベルを低減する手法も有効である15

放射性ノイズ対策として、シールドケースの使用や配線の最適化により、ノイズの放射を抑制する15。特に、スイッチング電流が流れる配線は、ループ面積を最小化することが重要である15

各国の電磁適合性(EMC)規格に適合するため、製品開発の初期段階からEMI対策を考慮した設計を行うことが重要である15。規格試験は、実際の使用環境を模擬した条件で実施し、十分な安全率を確保する必要がある。

9.8 メンテナンスと寿命管理

IGBTの長期間にわたる安定動作を確保するためには、適切なメンテナンスと寿命管理が重要である13

定期的な特性測定により、IGBTの劣化状態を監視し、予防保全を実施することで、突発的な故障を防ぐことができる13。測定項目としては、オン電圧、リーク電流、ゲート閾値電圧などがあり、これらの変化により劣化の進行を判断できる13

動作履歴の記録により、温度サイクル数、電流ストレス、スイッチング回数などを管理し、寿命予測モデルに基づいた交換時期の判定を行う13

予備品の確保と交換作業の計画立案により、システムの稼働率向上と保守コストの最適化を図ることができる13。特に、製品のライフサイクル終了に伴う代替品への移行計画も重要である。

10. 注意点

10.1 ゲート駆動に関する注意事項

IGBTのゲート駆動において最も重要な注意点は、ゲート端子の開放状態を避けることである1115。ゲート端子が開放状態になると、コレクタ-ゲート間の帰還容量により、コレクタ電圧の変化がゲート電圧に影響し、意図しない動作や誤点弧が発生する可能性がある11

ゲート駆動回路が動作していない状態では、必ずゲート-エミッタ間に負の電圧(-5V以上、推奨-15V)を印加し、確実にオフ状態を維持する必要がある15。この負の電圧により、ノイズや外部信号による誤点弧を防止できる15

ゲート駆動電圧の最大定格(通常±20V)を超えないよう注意が必要である15。過電圧によりゲート酸化膜が破壊されると、IGBTは完全に機能を失う15。静電気放電(ESD)に対しても十分な保護対策を講じる必要がある。

ゲート駆動回路の電源投入・遮断シーケンスにも注意が必要である15。不適切なシーケンスにより、一時的にゲートが不定状態になり、意図しない動作が発生する可能性がある15

10.2 熱的ストレスと温度管理

IGBTの信頼性において、温度管理は極めて重要な要素である1315。接合温度が最大定格(通常150℃または175℃)を超えると、特性劣化や破壊が生じる可能性が高くなる13

温度サイクルによる熱疲労は、IGBTの主要な劣化メカニズムの一つである13。半導体チップと外部端子の熱膨張係数の違いにより、温度変化時に機械的ストレスが発生し、ワイヤボンドの断線や半田接合部のクラックが生じる可能性がある13

急激な温度変化は、チップ内部の温度分布の不均一を引き起こし、局所的な熱応力により特性劣化を加速する可能性がある13。可能な限り、緩やかな温度変化となるよう動作条件を設定することが重要である。

放熱設計においては、ホットスポットの形成を避けるため、均一な放熱経路を確保することが重要である15。不均一な放熱により、チップ内部に温度分布が生じ、局所的な過熱が発生する可能性がある15

10.3 過電流と短絡に対する保護

IGBTの過電流保護は、素子の安全な動作において最も重要な要素の一つである15。IGBTの短絡耐量は一般的に10μs程度と短いため、この時間内に過電流を検出し、保護動作を完了する必要がある15

負荷短絡時には、IGBTに定格電流の数倍から十数倍の電流が流れる可能性がある15。この状況では、短時間で大量の熱が発生するため、速やかな保護動作が不可欠である15

過電流検出回路の応答時間と保護動作の遅延時間を考慮し、実際の保護完了時間が短絡耐量時間内に収まるよう設計する必要がある15。検出回路の誤動作を防ぐため、ノイズフィルタやヒステリシス特性を適切に設定することも重要である15

アーム短絡(上下アームの同時導通)は、IGBTにとって特に危険な状況である15。デッドタイム設定の不備や制御回路の誤動作により発生する可能性があるため、十分な安全率を持ったデッドタイムの設定と、アーム短絡検出機能の実装が重要である15

10.4 電磁ノイズと誤動作対策

IGBTの高速スイッチング動作は、強力な電磁ノイズを発生させ、周辺回路や他のシステムに悪影響を与える可能性がある15

dV/dt(電圧変化率)が大きすぎると、対向アームのIGBTに誤点弧を引き起こす可能性がある15。この現象は、配線の寄生容量を通じて流れる変位電流により、ゲート駆動回路に外乱を与えることで発生する15

スイッチング時のdi/dt(電流変化率)は、配線の寄生インダクタンスと相互作用してサージ電圧を発生させる15。このサージ電圧がIGBTの定格電圧を超えると、素子破壊の原因となる可能性がある15

制御回路とパワー回路の分離、適切なシールド設計、グラウンド設計の最適化により、ノイズの結合を最小化することが重要である15。特に、ゲート駆動信号の伝送経路は、パワー回路からの影響を受けにくい配置とする必要がある15

10.5 並列運転時の特有な課題

複数のIGBTを並列運転する場合、素子間の特性ばらつきが電流アンバランスを引き起こし、特定の素子に過大な電流が集中する可能性がある13

スイッチング特性のばらつきにより、ターンオン・ターンオフのタイミングに差が生じ、瞬間的に一部の素子に電流が集中する現象が発生する可能性がある13。この現象は、素子の特性劣化を加速し、最終的に故障に至る可能性がある13

配線インダクタンスの差は、各素子の電圧降下の差を生じさせ、電流分担の不均衡を引き起こす13。可能な限り対称的な配線レイアウトを採用し、各素子への配線条件を等しくすることが重要である13

一つの素子が故障した場合、残りの素子に過大な電流ストレスがかかり、連鎖的な故障を引き起こす可能性がある13。冗長設計や適切な保護機能により、単一故障が全体システムに与える影響を最小化する対策が必要である13

10.6 環境条件と長期信頼性

IGBTの長期信頼性は、動作環境の条件により大きく影響される13。高温・高湿環境では、パッケージの劣化や腐食が進行し、電気的特性の変化や絶縁破壊を引き起こす可能性がある13

振動や衝撃は、内部の接続部分(ワイヤボンド、半田接合部)に機械的ストレスを与え、疲労破壊の原因となる可能性がある13。特に、共振周波数での振動は、小さな振幅でも累積的な損傷を与える可能性があるため注意が必要である13

腐食性ガスや汚染物質は、パッケージの劣化や接点の酸化を引き起こし、電気的特性の劣化や接触不良の原因となる可能性がある13。清浄な環境の維持と適切な保護対策が重要である13

宇宙用途や原子力施設などの放射線環境では、放射線による半導体特性の変化や回路の誤動作が発生する可能性がある13。これらの特殊環境では、放射線耐性を考慮した特別な設計や対策が必要である。

10.7 保守・交換時の安全対策

IGBTを含む電力変換装置の保守・交換作業では、高電圧による感電リスクがあるため、適切な安全対策が不可欠である15

作業前には、必ず主電源を遮断し、残留電荷を完全に放電させる必要がある15。大容量のコンデンサには、電源遮断後も長時間にわたって危険な電圧が残存する可能性があるため、専用の放電装置を使用して安全を確認する15

静電気による素子破壊を防ぐため、作業者は適切な静電気対策(アースストラップの着用など)を行い、静電気防止作業台を使用する必要がある15。新品のIGBTは、静電気保護パッケージに収納されているが、取り出し後も継続的な静電気対策が必要である15

交換作業では、正確な配線接続と適切な締め付けトルクでの固定が重要である15。配線の誤接続は、素子の即座の破壊や周辺回路への損傷を引き起こす可能性がある15

10.8 設計時の安全率設定

IGBTを使用したシステム設計では、各種の不確定要素を考慮した適切な安全率の設定が重要である15

電圧定格に対しては、通常1.5~2倍の安全率を設定し、サージ電圧や電源変動に対する余裕を確保する15。電流定格に対しては、温度ディレーティングや経年劣化を考慮し、1.2~1.5倍程度の安全率を設定することが一般的である15

温度設計では、最高周囲温度、日射、内部発熱などを総合的に考慮し、最大接合温度に対して十分な余裕を確保する15。一般的に、最大接合温度の80~90%程度を設計目標値とすることが推奨される15

寿命設計では、期待寿命に対して安全率を考慮し、計画的な保守・交換スケジュールを策定する13。特に、重要なシステムでは冗長設計や予備品の準備により、単一故障による全体システムの停止を防ぐ対策が重要である13

11. まとめ

11.1 IGBTの技術的意義と貢献

IGBTは、1980年代の開発以来、パワーエレクトロニクス分野において革命的な変化をもたらした半導体デバイスである118。MOSFETの高速スイッチング特性とバイポーラトランジスタの大電流駆動能力を巧妙に組み合わせた構造により、従来の技術では実現困難であった高性能電力変換システムを可能にした45

特に、1984年に東芝の中川明夫等によって開発されたノンラッチアップIGBTは、素子の実用性を飛躍的に向上させ、IGBTが現在のような広範囲な応用分野に展開される基盤を築いた118。この技術革新により、IGBTは単なる実験室レベルの素子から、産業界で広く使用される実用的なパワーデバイスへと発展した。

現在、IGBTは電気自動車から家庭用エアコン、データセンターのUPSシステムまで、現代社会の電力インフラを支える不可欠な技術となっている345。その優れた効率性により、エネルギー消費の削減と環境負荷の軽減に大きく貢献しており、持続可能な社会の実現において重要な役割を果たしている。

11.2 技術特性の総合評価

IGBTの技術特性を総合的に評価すると、その最大の強みは電圧制御によるシンプルな駆動性と、大電流・高耐圧での優れた導通特性の両立にある45。従来のバイポーラトランジスタが抱えていた複雑な電流駆動の問題を解決し、同時にMOSFETの高耐圧化における課題も克服している。

600V~数kVの幅広い電圧範囲と、数A~数kAの電流範囲をカバーするIGBTの製品ラインアップは、多様なアプリケーションの要求に対応できる柔軟性を提供している410。また、20kHz程度のスイッチング周波数は、効率と制御性のバランスを適切に実現している10

一方で、MOSFETと比較したスイッチング速度の制約や、SiC MOSFETと比較した損失特性については、今後の技術発展における課題として認識されている8。しかし、コストパフォーマンスの観点では、IGBTは依然として多くの用途で最適な選択肢であり続けている。

11.3 産業応用における成果と実績

産業応用の観点から見ると、IGBTの導入は各分野で具体的かつ顕著な成果を生み出している34。UPSシステムでは、変換効率を80%から90%に向上させ、装置サイズを1/3に小型化するという画期的な改善を実現した3。これにより、データセンターの電力使用効率(PUE)向上と設置スペースの最適化に大きく貢献している。

電気自動車分野では、IGBTインバータシステムの採用により、モーター駆動効率の向上と精密な制御が実現され、航続距離の延長と加速性能の向上を同時に達成している45。さらに、回生ブレーキシステムの高効率化により、エネルギー回収率の向上も実現されている。

産業用モーター駆動では、可変速制御システムの普及により、従来の一定速度運転と比較して30~50%の省エネルギー効果が実現されている49。これは、工場やビルシステムの運用コスト削減と環境負荷軽減に直接的に貢献している。

11.4 技術発展の方向性と将来展望

IGBTの技術発展は、現在も活発に続けられており、特に損失低減と高周波化の分野で顕著な進歩が見られる8。両面ゲート構造の開発により、ターンオフ損失を約6割削減する技術が実現されており、Si IGBTの性能限界を押し上げる可能性が示されている8

製造技術の進歩により、チップの微細化と製造コストの削減が継続的に進められており、IGBTの普及拡大とアプリケーション領域の拡張を支援している8。また、パッケージ技術の革新により、熱特性の改善と実装密度の向上も実現されている。

次世代パワー半導体としてSiCやGaNデバイスが注目される中でも、IGBTは中容量帯での最適解として重要な位置を占め続けると予想される8。特に、コスト性能比を重視する用途では、IGBTの優位性は長期間にわたって維持されると考えられる。

11.5 設計・利用における重要な指針

IGBTを効果的に利用するための重要な指針として、まず適切な選定プロセスの確立が挙げられる1015。使用条件の詳細な分析に基づく電気的仕様の決定、熱設計の最適化、駆動回路の適切な設計が、システム全体の性能と信頼性を決定する重要な要素である。

保護機能の実装は、IGBTシステムの安全性確保において不可欠である15。過電流保護、過電圧保護、温度保護などの多重保護システムにより、素子の安全動作領域を確実に維持し、システムの長期信頼性を確保することが重要である。

環境条件と長期信頼性の関係を理解し、適切な安全率の設定と予防保全計画の策定により、システムの稼働率向上とライフサイクルコストの最適化を図ることが重要である1315

11.6 持続可能な社会への貢献

IGBTは、持続可能な社会の実現に向けた重要な技術的基盤として位置づけられる34。高効率な電力変換により、エネルギー消費の削減と CO2排出量の低減に直接的に貢献している。特に、再生可能エネルギーシステムにおける電力変換効率の向上は、クリーンエネルギーの有効活用において重要な役割を果たしている。

電気自動車の普及促進において、IGBTは駆動システムの高効率化により航続距離の延長を実現し、電気自動車の実用性向上に貢献している45。これは、輸送部門のカーボンニュートラル化において重要な要素である。

産業分野でのエネルギー効率向上により、企業の環境負荷削減と経済性向上を同時に実現し、持続可能な産業発展を支援している49

11.7 今後の技術課題と研究方向

IGBTの更なる発展に向けた技術課題として、損失特性の改善とスイッチング周波数の向上が継続的な研究テーマとなっている8。特に、SiC MOSFETとの競合関係において、Si IGBTの性能向上余地を最大限に活用する技術開発が重要である。

製造技術の観点では、歩留まり向上とコスト削減により、IGBTの更なる普及拡大を支援する技術開発が求められている8。また、新しいパッケージ技術により、実装密度の向上と熱特性の改善を実現する研究も重要である。

システム技術としては、IGBTと制御IC、センサー技術の統合により、より高度な制御機能と保護機能を実現する研究が進められている13。人工知能技術との組み合わせによる予防保全システムの開発も、今後の重要な研究領域である。

11.8 結論

IGBTは、その誕生から40年以上を経た現在でも、パワーエレクトロニクス分野の中核技術として重要な役割を果たし続けている118。MOSFETとバイポーラトランジスタの優れた特性を組み合わせた独創的な構造と、ノンラッチアップ技術による実用性の確立により、現代社会の電力インフラを支える不可欠な技術として発展してきた。

電気自動車、再生可能エネルギー、データセンター、産業用モーターなど、多岐にわたる分野でのIGBTの活用は、エネルギー効率の向上と環境負荷の削減に大きく貢献している345。今後も、技術の継続的な改良と新しいアプリケーション分野の開拓により、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たしていくことが期待される。

IGBTの適切な理解と活用により、より効率的で信頼性の高い電力変換システムの実現が可能となり、これは技術者のみならず、社会全体にとって大きな価値を創出する技術であると結論できる418

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